親知らず
1
ある恋を終わらせようと思って
親しらずを抜いた。
ふつうはそういう時、髪を切るのだろうが。
2
まだ虫歯になっていなかった。
もう少し先にのばしても良かった。
でも親しらずは時に命取りになる。
この歯は遅かれ早かれ
抜かれる運命にあった。
3
口を開けながら
涙をためて考えたこと。
「世の中には、ダメになる前に
取り去ってしまった方がいいことも
あるんだわ」

4
そして、
この世の終わりとも思える痛みが訪れたが
その痛みも今は嘘のように和らいだ。
“エアメール”という言葉の響きには
いかにも海を渡ってきた軽やかさが
あって、届くだけで嬉しくなる。
「トウモロコシがウマイ!」の一言から
見知らぬ土地の風が吹く。

クローバー畑の幸福論
四ツ葉のクローバーは
三ツ葉が突然変異したものなんだって。
平凡な三ツ葉がいっぱいあるから
四ツ葉のクローバーは幸せなんだね。
いつもそうだった。
学校も、会社も、恋人も
次の居場所が決まってないと動けなかった。
何かに所属してないと不安になるんだ。
自由になんか ちっともなりたくない。

流行の新しい服を買っても
カラオケのレパートリーを増やしても
いろどりのきれいな料理が作れても
あなたがいなきゃ 何にもならない。
あなたの前だけ、カッコつけたい。
写真や手紙を整理していると
“どうせ思い出なんて
最初は楽しいのにだんだん飽きてくる。
そういう時は 自分への言い訳に 一ケ所にまとめたり
こう思うことにしている。
選んで捨てたり残したり
できるはずないんだから”

卒業アルバムに萩原朔太郎の 
『眺望』という詩が載っている。
何年か後、
あのページは一番無駄だと思っていた男が
あのページが一番好きだという女を愛した。
私は暑がりで、寒がりの体質だ。
だから私のちょうどいい季節は
とても短い。
そういう人は、普段の気持ちも
嬉しいか、悲しいかのどっちかに偏って、
あまり「普通」ということがないらしい。
「普通」という場所に長く居る コツは何ですか?
会社を辞める日、 自分で決めたことなのに、
やっぱり泣けた。 まるで、
自分から別れようと言っておきながら 相手よりも大泣きしている
わがままな女のようだ。 退職は 失恋の匂いがする。
恋愛はスポーツに近い。
負けた試合ほど気になる。
サッカーにたとえれば
あの時もっと右にボールを蹴っていたら
……なんて後悔する。
もう一度やり直したいと思う。
でも本当に大事なのは
昨日じゃなくて
今日や明日のゲーム。

きっと
“すれる”と
“みがかれる”は
紙一重なんだ。
あ、ゴメンナサイ。立ち読み部分はここで終わりなんです。ここまで読んで下さって有りがとうございます。
このあともっと面白くなりますから買っていただけるとすごく嬉しいです。
あとがき
人はそれぞれ、違う地図と時計を持っています。
ちがう地図を持っている人を好きになったら、どおうすればいいのでしょうか。
ちがう速さで時計が進んでいるとしたら、ずっと並んで歩いていけるのでしょうか。
それは私にも分かりません。でも不安の海を渡り、希望の風が吹いてくることがあります。
歩いてさえいけば、その風に吹かれることができます。多分 生きていくことだけが答えです。
きっと 生きることが 応えそのものなのです。
本作りにあたって、同じ時計と地図を持ち、一緒に夢を追えた友、羽中田桂子さんに 心より感謝します。 柳下詩織
著者プロフィール
柳下詩織
1969.9.20富山県に生まれる
大卒後、清里にあるオルゴール博物館で学芸員として勤務。FM富士の局アナを経て、現在フリーアナウンサーとして活躍中。
羽中田桂子
1966.8.6山梨県に生まれる
専門学校卒後、グラフィックデザイナーとして広告代理店に勤務。現在は甲府市にてハンバーグとワインの店「パレット」と、お絵かき教室を夫婦で経営。
本の誕生秘話
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関連書籍の紹介
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読者感想文
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