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 彼女が今度はズボンのポケットから手帳を取り出して、そのページを探している。
 彼女のポケットからは何が出てくるかわからない。
 一度、知り合いからもらったと言って、トカゲが出てきたのには驚いた。
 こいつに恐いものはあるのだろうか?
「依頼人の名前は、山崎恵理さん、十八才、私が働いている店の常連さんです。およそ一週間ほど前から行方不明になっているそうです。これが依頼人の住所と電話番号です。彼女はまだ高校生ですから、昼間は学校にいるはずです。もし会ってみたかったら、夜に彼女の家へ行くか、四時頃にでも店へ来てください。学校が休みの日以外はほとんど毎日帰りには寄るって言ってましたから」  本文より

ホームへ 70% あとがき

著者profile














 
         久保田雄一 著





 柏木探偵事務所





                                   明窓出版



















   推薦の言葉
●●●●●推薦の言葉の中身●●●●●

































  まえがき

●●●●●まえがきなし●●●●●

























       目 次




●●●●●目次なし●●●●●


























・・・・・朝(プロローグ)・・・・・






「犯人は井上優美、お前だ!」
 俺はいつものようにイスに深く腰掛けて、彼女を指差す。
「はいはい、暇なのは分かりますけど、勝手に犯人にしないでくださいね」
 彼女は少しあきれたようにそう言った。
 俺は柏木秀一、二十八歳。
 一応探偵をやってはいるが、儲かっているわけではない。
 探偵というのは確かに有名な職業ではあるが、有名になれる奴は少ない。
 俺も有名になりそこねた探偵の一人だ。
 彼女は井上優美、二十四才(らしい)。
 俺の助手をしてくれている。     後略
 彼女はこの近くのアパートで独り暮らしをしていて、だいたい俺が目覚める頃には、渡してある合鍵で勝手に入り込んでは、何も言わずにミルクティーを入れてくれている。
 俺はそれを飲み干しながら、今日の依頼について聞くのがいつもの日課となっている。
 しかし、ここ数日全く依頼が無かったものだから、それを聞くのが不安だった。
 もしかしたら今日も依頼は無いのか?
 そう思いながら彼女に一応聞いてみる。
「今日の依頼は?」
 彼女がふと溜め息をついた。
 やはり今日も依頼はないのか。
 そう思った時だった。
「というのは嘘で、一応あります」
 彼女が笑顔で話しかけてきた。
「一応? 一応というのは?」
 俺が聞き返す。
「この子を探してほしいと」
 彼女が胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
 ついついその写真ではなく、胸に目が言ってしまうのは男の悲しい性だろうか。
 そして胸に行っていた視線を受け取った写真に移動させると、その写真には一匹の猫が写っているのがわかった。
「ね、猫か?」
「はい、そうです」
 少し二人とも黙り込んでしまった。
 普通なら、自分のプライドにかけてこんな依頼は受けたくはないが、この際仕方ないだろう。
 彼女の入れてくれたミルクティーを一口すすり、彼女の顔を見つめる。
「わかった。引き受けよう」
「ほ、本当ですか?」
 彼女が驚いた顔で言う。
 彼女は俺のプライドの高さと、頑固でわがままな性格をよく知っているのだ。
 だからきっと猫探しなどやらないだろうと思って、さっきも「一応」と言ったのだ。
「ああ、もう仕方ないだろう」
「さすがですね、それでこそ先生です」
 彼女が笑顔でそう言う。
 俺はこの笑顔に弱い。
 彼女がここへ上がり込んできてから、俺のプライドはあの笑顔を見せつけられるたびに崩れていく。
「それで?」
「はあ?」
 少し抜けたところもある。
「依頼の詳しい内容だよ」
「ああ」
 彼女が今度はズボンのポケットから手帳を取り出して、そのページを探している。
 彼女のポケットからは何が出てくるかわからない。
 一度、知り合いからもらったと言って、トカゲが出てきたのには驚いた。
 こいつに恐いものはあるのだろうか?
「依頼人の名前は、山崎恵理さん、十八才、私が働いている店の常連さんです。およそ一週間ほど前から行方不明になっているそうです。これが依頼人の住所と電話番号です。彼女はまだ高校生ですから、昼間は学校にいるはずです。もし会ってみたかったら、夜に彼女の家へ行くか、四時頃にでも店へ来てください。学校が休みの日以外はほとんど毎日帰りには寄るって言ってましたから」
「ああ、わかった。ところで依頼人が最後にその猫を見たのは……」
「一週間前くらいです」
 俺はこけそうになった。
「ちがう! 場所だ、場所を聞いてるんだよ!」
「ああ。散歩をしていた時だそうで、駅前辺りでいなくなったと聞いてますが……」
「猫が散歩か?」
「さすがにクサリは使わないらしいですけど、彼女にしてみればごく普通のことだと」
「なるほど。よし、さっそく行ってみるか」と気合をいれて立ち上がった俺に彼女が言った。
「あ、晩御飯は何がいいですか?」
「……な、何でもいいよ」
 またこけそうになりながら、少し疲れた声で俺はそう答えて、出かけた。

・・・・・駅前・・・・・
 駅前はいつものように混雑している。
 相手は猫だ。
 よほど好きな奴でないとその見分けなどつくはずもない。
 ましていなくなった場所がこの駅前だ。たとえ相手が人間でも、すれ違った十分後にはきっと覚えてもいないというのに、いつすれ違ったかもわからぬ猫について聞いても、誰もわからないだろう。
 猫探しなんて簡単そうな仕事だが、かつての成功例が少ない原因は、実はそんなところにあるのだ。
 さらに猫は犬と違って、どこへでも行ってしまう。
 屋根の上に登られると、それを捕まえるのは困難だ。
 飼い主なら呼べば来るだろうが、俺とはまだ一度も会ったことのない相手だ。呼んだところで降りてくるわけがない。
「あ! しまった!」
 俺がそこまで考えたところで、自分の失敗に気づき、叫んだ。
 猫の名前を聞くのを忘れた。
 呼んでも来ないかもしれないが、呼んでみないとそいつかどうかわからない。
 しかし呼ぼうにも名前がわからないのでは、呼ぶことも出来ない。
「猫ちゃん」
と呼んで来るはずもないだろうし……。
 最初からこんな調子では、いったいこの先どうなることやら。
 仕方ない。一応この写真で聞き込みをしてみるか。
 もしまだこの辺でうろついているなら、駅員が知っているかもしれない。
 そして長時間に渡って、通り掛かる人に俺は聞き込みをし続けた。
 まずは学生だ。
 ここを通学路としている学生なら、ほぼ毎日ここを通っていることになる。
 たった一度見掛けたくらいでは、覚えてはいないだろうが、毎日、もしくはほんの数日間でも続けて見かけてくれていれば覚えていても不思議ではない。
 そんな期待を持って聞いてみたのだが、得られた情報は、「知らない」の一言だけだった。
 いわゆる社会人は急ぎ足で通り過ぎるから全く覚えていないだろうし、やはり次は駅員に聞くしかないか。
 駅の中には、受付に座っている駅員と、切符を切っている、というより今では切符にハンコを押している駅員と、その部屋の奥の方にいるのを合わせて、六人いた。
「すみません、少しお聞きしたいのですが」
「はい、何でしょうか?」
「この猫を誰か知らないでしょうか?」
 そこにいた六人が順番にその写真を覗き込んでいる。
 なぜか気になって時計を見た。
「あ!」
 誰かの声がその時響き、
「知っているんですか!」
と俺は期待に胸をふくらませて振り返ったが、その声の相手を見てがっかりした。
「なんだよ、柏木。今日は猫探しか?」
 そいつの名は竹原健二、同級生でいつもライバル的存在にあった奴だ。
 別にお互いに嫌いだと言うわけではないのだが、いつのまにかどんなことでも張り合うようになり、会えばいつも互いが互いをバカにするようなことしか言わなくなってしまい、優美はそれをケンカしているようにしか見えないと言っていた。
「お前こそ、相変わらず便所掃除の毎日なんだろ?」
 そう言ってにらみあったとたんに、そこにいた駅員があわてて二人の間に入り込んできた。
 確かにケンカしているようにしか見えなかったらしい。
「い、いや、その、いつものことですから」。俺と竹原が慌てて二人の関係を話すと、駅員も半分あきれたように納得してくれたらしい。
「ところで竹原くん、この猫を知らないか?」わざと仲がいいように振る舞ってみせる。
「いや、ちょっと悪いけど、知らないなあ」竹原も気持ち悪いほどに仲がいいように振る舞ってみせていた。
「そうか、仕事の邪魔して悪かった。それじゃまた今度」
と軽く手をふってその場を去った。


 あ、ゴメンナサイ。立ち読み部分はここで終わりなんです。ここまで読んで下さって有りがとうございます。
 このあともっと面白くなりますから買っていただけるとすごく嬉しいです。 

















  あとがき


 俺の名は、久保田雄一。1976年に生まれ、1998年に二十二歳になる。
 こんな特に盛り上がりも何もない話を、途中で飽きもせずに読んでくれて本当にありがとう。
 俺がこの話を書いていて困ったのは、名前だった。
 俺は名前を考えるのが苦手で、名前を考えるだけで一時間くらいかかったのである。
 それで結局、今回の登場人物の名前の多くは、友達の名前を借りて付けることにした。
 例えば、竹原健二というのは、俺の友達のある二人を組合せただけで、柏木秀一という名前は、「柏木」というのは、本当になぜか口から突然出てきた名前で意味はないのだが、「秀一」というのは、俺の名前の「ゆういち」に「し」をつけて「しゅういち」としたのである。    後略






















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