南京の話題 明るい南京 誤解の極南京 南京に住んでみた

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戦争の歴史が影を落とす古都南京で
● ゼロからスタートした、ジョイントベンチャー
● 世界でひとり勝ちの成長を続ける中国で、
  駐在員の目に映った中国人像とは?
日本で例えれば、半世紀も前の農村に、突然21世紀の最新文明が侵略して来 た……そんな感じであった。しかも共産党が一党支配するイデオロギー国家の なかに、資本主義の企業文化が入り込んでいる。こんなに矛盾した状態が、今 後安定して続くはずがない。貧しい農村と近代的な経済活動は、この先一体ど うなるのだろうか?        ―― 序文より

本文70% 目次 あとがき

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Copyright (C) 2007 明窓出版, All rights reserved






























   推薦の言葉
●●●●●推薦の言葉の中身●●●●●

































  まえがき

 南京を広辞苑で引いてみると、「中国または東南アジア方面から渡来したものに冠する語」とある。
 南京錠、南京豆、南京玉すだれなど、お馴染みの言葉も多いが、日本人が南京と聞いて最初に頭をよぎるのは、やはり南京大虐殺という歴史ではないだろうか?
 私が初めて南京に足を踏み入れたのは、今から六年ほど前のことで、まったくの偶然からであった。
 ことの次第はあとでお話しするが(第1章、2「南京との不思議な出逢い」参照)、夕方南京の空港に着き、翌朝にはもう飛行機に乗っていた。このため、南京という街の印象はほとんどなかったが、南京に行ったんだという記憶は、強く心に残った。
 やはり歴史との関連で、南京を意識していたからだと思う。
 
 仕事で南京と係わりを持つようになったのは、それから半年後、一九九八年の春である。
 南京に本社を持つ国営企業と、香港にあるハイテク企業との、三者ジョイントベンチャー設立がその目的だった。
 爾来、毎月のように南京や香港に出向き、事業実現の可能性について打ち合わせを重ねることになる。こうして、二〇〇〇年の初夏にジョイントベンチャーが設立され、事前検討開始のころには想像もしなかった、南京への赴任が決まったのである。
 子供たちがまだ学校なので、南京ではホテルでのひとり住まいであった。
 駐在生活は決して長いものではなかったが、今東京に戻って南京を想うとき、走馬灯のように幾つもの思い出が頭をよぎってゆく。

























      ◎ 南京好日・目次 ◎


序章 プロローグに代えて
 1広東語とその影響 14
 2経済特区深で見た現代中国の矛盾 19


第1章 中国そして古都南京へ
 1途方にくれた広州駅前広場 24
 2南京との不思議な出逢い 30
 3南京人の誇り \ 山と河と湖 33
 4南京の空の謎 43
 5十二月一三日 50


第2章 南京に住んでみて
 1桜花苑のおかみとラオポンヨウ 58
 2あっと驚く中国流ボーリング 66
 3バールとカラオケ 71
 4中国公安局 76
 5中華料理と日本食 79
 6サンショウ会 84
 7お世話になった按摩と愉快な常連 89


第3章 ジョイントベンチャーの想い出
 1フィージビリティー・スタディー 96
 2商談のなかに出てきた三国志 100
 3ゼロからのスタート 104
 4三代の秘書 110
 5インタビュー 118
 6置き忘れたパスポート 122


第4章 中国の名所旧跡を訪ねて
 1悠然たる桂林の清流 130
 2天に極楽、地に蘇州 140
 3隋の煬帝と揚州の柳 152
 4昆明、大理そして玉龍雪山 161
 5美しい海辺の街アモイとチンタオ 173
 6世界自然遺産武陵源と憧れの洞庭湖 185


第5章 閑話休題
 1中国人女性とフェミニズム 200
 2ツオ・アイとメーク・ラブ 208
 3キールの信号機と南京の横断歩道 214
 4北米のラインアップとわれ先の中国 220
 5水滸伝に描かれた政治腐敗 228
 6中国共産党のイデオロギー 235


終章 金鷹皇冠酒店
 参考文献 253
 あとがき 255



























 
 4南京の空の謎
 

 
 昔、カナディアン・サンセットという言葉を聞いたことがある。
 歌のなかに出てきたような気もするし、何かの本で読んだような気もするが、はっきり思い出せない。ただし私は長い間カナダに住んでいたので、カナディアン・サンセットそのものは何度も見て知っている。
 普段の生活のなかでは仕事があるので、太陽が沈むころはまだオフィスにいることが多い。夕日を見る機会があるとすれば、それは戸外にいるとき、すなわち家族での外出とか旅行、ゴルフ、それとも出張しているときなどだろう。
「何度も見て知っている」と申し上げてはみたものの、ある情景とセットで太陽が沈んでゆく光景は、なかなか浮かんでこない。
 ところが日本での夕日となると、いろいろ思い出せる。
 家族旅行であちこちドライブをしていたころ、峠越えでやけに大きな太陽がゆらゆらと赤い光を放ちながら、ゆっくり沈んでゆく光景に思わず車を止めてしまう。凄いなぁー! と車から降りて駈けだすと、周りにやはり何組かの旅行者が車を止めていて、僅か数分の壮大な自然のドラマに目を奪われている。
 
 カナダの夕日を思い出せない理由のひとつは、たぶんこのような赤い太陽を目にする機会が少なかったからではないかと思う。街中であれば沈みゆく太陽は赤くなるはずだが、どうもそれが思い出せない。思い出せるのは、空気の澄んだ郊外のふたつの光景である。
 ひとつはゴルフ場。
 カナダのトロントの夏は夏時間の関係もあって、夜の九時を回ってもまだ日が燦燦と輝いている。五時に仕事が終ったあとでもゆっくりワンラウンドできるので、夏の間は平日でもよくゴルフをやった。
 このためゴルフ場での夕日は、よく見ていたはずなのである。日が大きく傾くと、日本であれば赤く染まってゆくが、ゴルフ場の夕日は眩いばかりに輝いて赤くならない。太陽が茜色に染まった黄昏どきという、あの趣が感じられないまま、日が沈むと急に暗くなってしまう。
 暗くならないうちにゴルフを終えたいということに気を取られているから、沈みゆく太陽には目が向かない。そんなこともあって、夕日のある風景には何度も接していたのに、どんな風に地平線に沈んでいったのか、よく覚えていないのだ。
 
 もうひとつは、バンクーバーの飛行場で見たカナディアンサンセットで、この光景は今でも鮮明に覚えている。
 そのときは出張中で、乗り換えのためのラウンジにいた。
 ちょうど太陽は、広々とした滑走路の方向にあったのでよく見えた。もう地平線に落ちようとしているのだが、中天に輝く太陽がそのまま沈んでゆくという感じで、白い刺すような光線はとても眩しく直視できない。赤い夕日のイメージとは程遠いものだった。
 数分の間、手をかざして沈みゆく太陽を見ていたが、そのときふとカナディアン・サンセットという言葉を思い出した。たぶん私は、この言葉にもっと詩的なイメージを抱いていて、まさかこんな太陽をカナディアン・サンセットと呼んだわけではないだろうと思ったからである。
 
 それでは、南京の夕日はどうだろうか?
 日本と同じ、赤い夕日である。最近の日本は、環境対策などで空気の浄化が進み、カナダほどではないにしても、ちょっと眩しい夕日が増えてきたようにも思う。だから正確には、南京の夕日は、もっと赤いと言うべきなのかも知れない。
 ちょっとくすんだ大気のなかで、辺りを真っ赤に染めて山の端に沈んでゆく夕日には、中国の仏塔の黒いシルエットがよく似合う。こんなところに、バンクーバーの目を刺すような眩い太陽が沈んでゆくのでは絵にならない。
 不思議といえば、不思議なものである。
 
 太陽がこんなにも赤くなるのは、大気が何らかの理由で清浄でないことにあるわけだが、それがどんな物質によるものなのかが問題になる。
 工場から排出される産業廃棄物や車の排気ガスは、やはり大きな原因のひとつだろう。
 南京にも製鉄所や石油化学工場などがあるらしいので、明らかに産業廃棄物によるスモッグだと感じる日が何日かある。しかしここでは、晴れ渡ってスモッグも発生していないのに何となくすっきりしない南京の空を問題にしているのだが、それでは車の排気ガスが主犯かというと、これも今ひとつ合点がゆかないのである。
 車の排気ガス汚染といえば、メキシコシティーを思い出す。
 空から飛行機で降りてゆくと、はっきりそれとわかる排ガスが、雲のように棚引いていてぞっとする。町は二、〇〇〇メートル以上の高地にあるが、周りをぐるりと山に囲まれた盆地なので、排気ガスは行きどころがなく上空を漂っているのだ。このため、飛行場に降り立って外に出ると、排ガスの臭いで胸が痛くなる。
 しかし、南京で胸の痛くなるような思いをしたことはないし、大気のくすんだ状態も排ガスによるものとはどこか違うような気がする。
 ただ不思議なことに、このように何となく大気がくすんですっきりしない状態は、何も南京市に限らない。長江流域のどこに行っても大同小異なのである。
 少し余談になるが、長江の遥か上流にある四川省の成都は特に霧や曇りの日が多く、一年を通じて晴れる日がとても少ない。私がこの街を初めて訪れたときは暑い夏の盛りだったが、滞在した三日とも晴天に恵まれず、高原にでもいるような深いガスの毎日であった。
「蜀犬吠日」という言葉がある。
 *蜀の犬が(たまに出てきた)太陽に(驚いて、もしくは喜んで)吠えるというほどの意味で、成都に太陽の出る日が少ないことを言い表しているのだそうだ。
 しかし成都は山深い盆地なので、ほかの地域とは気象条件も異なると言わねばならない。
 
  *注、三国志演義に出てくる蜀の国は、現在の四川省成都を中心とした地域である。
 
 話しを晴れても澄み渡らない南京の空に戻したいと思う。
 南京人の目から見ると、晴れた空は十分青いと思っているようなふしがある。抜けるような青さがないのだと幾ら説明しても、
「それではやはり排気ガスが原因ではないでしょうか」
 という気のない答しか返ってこない。
 しかしこれが南嶺山脈を越えて深や香港に行くと、空はぐんと青くなる。これらの地域の方が、むしろ南京よりは交通量も多く排気ガスの影響は大きいはずなのに、と疑問はますます深まってしまう。
 
 こんなにすっきりしない南京の空だが、夏の暑い盛りの一時期だけ青さが少し深くなる。
 ジョイントベンチャー設立後、小田さん(第2章、6「サンショウ会」参照)とよく昼食をご一緒させていただいたが、夏空だけなぜ青いのか話題になったことがある。
「それは上昇気流ですよ」
 彼のこの答えには説得力があった。
 南京で最初の夏も盛りのころ、青さを増した空を見ながら、
「秋になれば空はもっと青くなるぞ」
 と期待した。
 残念ながらこの期待は見事に裏切られ、天高く馬肥ゆるはずの秋の空は、暑い夏よりもくすんでしまった。こうして灰色の冬を迎え、晴れても澄み切らない南京の不思議な空に、なぜだろうと思う日々が続いたのである。
 
 黄河流域や長江流域の土壌は、黄土層で覆われている。
 この黄土は、粘土質で粒子も細かい。南京の大気中にもこれらが漂っていて、道路の端には時どき黄土の粒子が薄っすらと積もっている。
 晴れた南京の空を、澄み切らせてくれない主犯格。
 それは大気中に漂っている、この微粒子ではないか? 私はひとりそう思っているのだが、誰もそうだとは言ってくれない。
 やはり石油化学工場や製鉄所などからの産業廃棄物や車の排気ガスなどのコンビネーションが、空に決定的な悪さをしているのだろうか? 南京で生活している間、澄み切らない空の不思議についてあれこれ他愛もなく考えたが、結局納得のゆく結論を見出せずにいる。
 カナダの抜けるような紺碧の空には及ばないにしても、日本の空はやはり青い。南京に長く住んでいると、この澄み渡った空の青さが無性に懐かしくなる。そしてたまに出張で日本に戻ったとき、その空の青さにほっとするのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 5一二月一三日
 

 
 南京では毎年この日の午前中に、市内何箇所かで空襲警報のようなサイレンの音が鳴り響く。
 ジョイントベンチャーのあった事務所からでは、下手をすると聞き逃してしまいそうな小さな音である。何回鳴るのか数えたことはないが、これでもか、これでもか、というほど鳴り渡っている。
 ちょうどこの日は、日本軍が南京市を侵略した記念日で、*ヤオ・アル・ヤオ・サンと言えば南京の人はすぐに分かる。
 序章でも触れたように、日本軍の南京大虐殺というと、日本と中国の歴史のなかで象徴的に思い出される事件のひとつだ。このため多くの日本人が、南京という名前を強く意識しているものと思う。
 南京市には**侵華日軍南京大屠殺記念館が、市の中心から南西に少し離れたところにあって、誰でも入館することができる。


 このあともっと面白くなりますから買っていただけるとすごく嬉しいです。 

















  あとがき


 日本に戻ってから一年ほどして、南京を訪ねる機会がありました。
 見上げる空は相変わらず澄み渡らずにくすんでいましたが、市の中心部では区画整理が急速に進み、古い街並みが壊されて大きな更地があちこちに出現していました。歴史の町南京が育んできた古い街の佇まいが、このように速いスピードで、近代的な高層ビルの林立する風景に塗り替えられているのです。
 南京に住んでいたころの、見慣れた街並みが壊されてゆく姿を目の当たりにすると、喜んでいいような悲しんでいいような、複雑な気持ちになってしまいました。       後略






















 著者プロフィール

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本の誕生秘話

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関連書籍の紹介

 
 (参考文献)
 
「中国語学の基礎知識」香坂順一著(光生館)
「広東語の風景」丘学強著、千島英一訳(東方書店)
「語学王 広東語」陳敏儀著(三修社)
「十八史略[T]覇道の原点」丸山松幸、西野広祥訳(徳間書店)
「紅楼夢」伊藤漱平訳(平凡社)
「小さいことにくよくよするな」リチャード・カールソン著、小沢瑞穂訳(サンマーク出版)
「デルの革命」マイケル・デル著、国領二郎監訳、吉川明希訳(日本経済新聞社)
「脳内革命」春山茂雄著(サンマーク出版)
「三国志演義」立間祥介訳(平凡社)
「隋唐演義」田中芳樹編訳(徳間書店)
「ワイルド・スワン」ユン・チアン著、土屋京子訳(講談社)
「古事記」倉野憲司校注(岩波文庫)
「世界の名著3」貝塚茂樹責任編集(中央公論社)
「中国現代化の落とし穴」何清漣著、坂井臣之助・中川友訳(草思社)
「水滸伝」駒田信二訳(平凡社)
「ミリオーネ世界事典」(学習研究社)
「世界歴史大事典」(教育出版センター)
「ブリタニカ国際大百科事典」(TBSブリタニカ)
「中国統計年鑑二〇〇三年度版」中国統計局
「中国都市統計年鑑二〇〇三年度版」中国統計局
「中国情報ハンドブック二〇〇二年度版」三菱総合研究所編

 中国各地の情報は、雅虎中国(ヤフー中国)などのインターネット検索で、各地方政府のホームページを直接参考にした。























読者感想文
みなさんからの素敵な感想文をお待ちしております。  編集部  
書き込みは
こちらからお願いします。
 小倉晴久著「南京好日」、大変興味深く拝読致しました。
 中国についての旅行記、エッセイ等数多く出版されており、評判の良いものは大概読みましたが、南京というと直ぐに我々日本人は南京大虐殺を連想してしまい、多くの執筆者がこれを避ける傾向があり、南京について書かれた旅行記もエッセイも、ほとんどないように思いますが、いかがでしょうか。
 また、中国旅行が盛んな今日ですが、南京を訪れるツアーは、ほとんどないのが現状です。あの戦争から、もう六十年も経っているのにです。
 そんななか、本屋で「南京好日」を手にし購入しました。
 ビジネスマンとして、南京に赴任され、南京での生活が非常に良く分かり、苦労も明るく語られており、こころよく読むことができました。
 この本を読む限り、南京には我々が日本で連想するような、反日感情はないように思われます。