遠い、遠い、アフリカのお話です。
子どもの象の、エレナは、おかあさんやおばあちゃんといっしょに、楽し
くくらしていました。
エレナは、太陽が大好きです。緑の草原を走るのも気持ちがいいし、川で
水遊びをするのも、最高の気分です。
ところが、最近、その太陽が、ちょっと強すぎるような感じになってきま
した。おばあちゃんたちは、よく空を見上げて、話しこんでいます。
「どうしたんだろう。最近、雨がふらないねえ……」
そういえば、ちょっと前まで、あざやかに青々していた、草原の草も、森
の木も、少ーし、茶色になっています。
エレナのおばあちゃんは、ここいらで一番かしこく、一番知恵がある、と
いうひょうばんです。そのおばあちゃんをたずねて、毎日大ぜいのお客さんが
来るようになりました。
「おばあちゃん。いったい何が起こっているんだい?ひょっとすると、か
んばつが来るのかな?」
たずねて来る象が、みな同じことを聞きます。
「かんばつって、なあに」
エレナは、おかあさんに聞きました。
「おかあさんも、経験したことはないんだけどね。日照りが、ずーっと続い
て、草も木も、かれてしまうことをいうんだよ」
草も、木も、かれてしまったら、象は食べる物がなくなってしまいます。
「……たいへんだ……」
エレナは、とても心配になりました。そんなエレナを見て、おかあさんは
にっこり笑っていいました。
「エレナ、そんなに心配しなくても大じょうぶよ。おばあちゃんが、ちゃん
とみんなを助けてくれるから。おばあちゃんはね、とてもかしこいんだから。
前の、かんばつの時も生きぬいてきたし……」
エレナは、少し安心しました。
「そうか。おばあちゃんは、かんばつの時どうすればいいのか、知っている
んだ」
でも、そんなおばあちゃんの知恵をたよりにして、毎日やって来るお客さ
んの数は、どんどんふえてきました。お客さんたちは、おばあちゃんと話し終
わっても、帰ろうとはしません。
前は、十二頭しかいなかった、エレナたちのむれが、たちまちなん百頭に
もふえてしまいました。
その、なん百頭もの象が、毎日、毎日、むしゃむしゃ食べるので、そのあ
たりの草も、木の葉も、たちまち無くなってきました。
「おなかがへったよー。プルルー」
エレナは、泣きべそをかきながら、おかあさんにいいました。
「もうじき、旅に出るからね。それまでのしんぼうだよ」
そういう、おかあさんも、あまり食べていません。
そんなある日、夜明けとともに、おばあちゃんは、長い鼻を空につき出し
て、さけびました。
「プオオー、プルルル。プオオー。さあ、今から旅に出るよ。みんなわたし
についておいで」
エレナは、ようやく旅に出ると聞いて、とてもうれしくなりました。で
も、これが実は、とても長い、苦しい旅の始まりだったのです。
少し歩いていくと、まだ草がはえているところにきました。エレナが食べ
ようとすると、おかあさんにいわれました。
「食べてると、おくれちゃうよ」
小ちゃなエレナは、みんなといっしょに歩くだけでもたいへんです。草を
食べてから、走って追いつくのは無理でしょう。
エレナは、おなかがへっても、つかれても、足がいたくなっても、歩き続
けました。
夕方になると、おばあちゃんはさけびました。
「今日は、ここでねるよ」
たくさんの象のむれが、いっせいに止まりました。ふと気がつくと、象の
数がふえています。歩いている時にも、お客さんはやってきていたのです。
エレナは、とてもつかれていたので、どっとたおれてしまいました。
おかあさんが、鼻の先でやさしくエレナにふれていいました。
「エレナ。明日も歩くんだからね。今のうちに、食べておくんだよ」
エレナは、あわてて立ち上がって、そのへんの草を食べました。草は、色
が変わっていて、ちっともおいしくありません。でも、今食べておかないと、
明日は歩けなくなってしまうのは、わかりきっています。エレナは、なみだを
こらえて、まずい草を、やっとのことで飲みこみました。
こうして、エレナたちは、旅を続けました。
毎日、毎日、日の出から、夕方まで歩きました。エレナは、とてもつかれ
て、朝になると、「もう歩くのはいや」と、だだをこねました。でも、おかあ
さんやおばあちゃんに、やさしくはげまされて、また歩き始めました。
毎日、毎日、森も草もどんどん色を変えて、茶色になっていきます。も
う、かんばつが始まっているのは明らかです。
ちょっとでも、緑が残っている森があると、おばあちゃんは、みんなを止
めて、食事をしました。でも、食料は、どんどんへってきました。茶色の草や
葉っぱを食べてい
ると、とてものどがかわきます。
でも、せっかく水飲み場についても、水はほとんど残っていません。
「ほかの動物も来るからね。ぜんぶ飲みほしてはいけないよ」
おばあちゃんは、みんなにいいました。
結局、ものすごくのどがかわいているのに、ちょっと水をなめるだけでが
まんしなければいけません。
エレナは、むかし川で水遊びして、楽しかったことを、思い出しました。
「もう、二度とできないかもしれないな……」
おなかがすいて、のどがかわいて、みんなふらふらになっていましたが、
それでも、歩かないといけません。
時々、歩いているうちに、どっとたおれて動かなくなる象もいます。
「立ち止まっては、いけないよ」

おばあちゃんは、とても悲しそうな顔でいいました。みんなが旅を続ける
ためには、たおれた象は見すてていかなければいけないのです。
「象はね。おなかがいっぱいで死んでいくのが、本当の死に方なんだよ。お
なかがへったまま、死んでいくのは、とてもかわいそうなんだよ」
おばあちゃんは、仲間がおなかがへったまま死んでいくのを、とても悲し
がっていました。エレナは、仲間が死んでいくのはどっちみち、とても悲しい
ことなので、その時おなかがいっぱいか、それともおなかがすいているか、な
んてことはどうでもいいことだと思いました。
おばあちゃんが、なぜそんなことを気にしているのか、さっぱりわかりま
せんでした。エレナが、この時のおばあちゃんの言葉の意味がわかったのは、
ずーっと、ずーっと後のことです。
あ、ゴメンナサイ。立ち読み部分はここで終わりなんです。ここまで読んで下さって有りがとうございます。
このあともっと面白くなりますから買っていただけるとすごく嬉しいです。